大判カメラの魅力 (1)

玉田 勇


 全自動のデジタル・カメラや35mm判・全自動一眼レフ・カメラ全盛のなかにあって、大判カメラが上級写真愛好家(ハイ・マチュア)の間で静かなブームを起こしつつある。

4x5判で代表される大判カメラは、ほとんどのものにピントグラスがあり、レンズ部とピントグラス部は蛇腹でつながれている。カメラの各部は、機構的な連携はほとんどなく、すべての操作は、全くのマニュアル方式である。カメラ本体が大きいための持ち運びの不便さ、三脚を使わなければならないというわずらわしさ。それでも使いたいという魅力は一体何なのだろうか。


画面が大きい

 4x5インチ判の大きさは、35mm判と比べると面積比で約15倍もある。たった4倍に拡大しただけで六切(8×10インチ)判になってしまうのだから、画質の点では絶対的に有利である。

−レンズが自由に選べる−  レンズにはシャッターが組み込まれており、簡単なレンズ・ボードに取りつけて使用し、カメラヘの着脱は、このボードごと行う。レンズは、ほとんどのものが全大判カメラに共用でき、カメラそれぞれに専用レンズというものはない。ボードを共通にすれば、カメラ、レンズとも共通になり、どれでも自由に選び、好みの組み合わせで使うことができる。

−1枚撮りである−  連続して撮れるという点では35mm判に一歩譲るとしても、フィルムは1カットずつバラバラなので、1枚ずつでも違った条件で撮影/現像をすることができる。このメリットは極めて大きい。

−アオリ機構がある−  アオリは、35mm判カメラにはない機構なので、詳しく見てみることにする。フィルムに写った像は、画面のフォーマットによって縦横比に若干の違いはあっても四角形である。しかし、撮影レンズがその光軸に垂直に交わる焦点面に結ぶ像は円形(イメージサークル)である。通常の35mm判や中判カメラでは、レンズは総てカメラの画面サイズに合わせて設計され、有効画面がイメージサークルのなかにあり、光軸が画面の中心へ垂直に交わるように作られている。これは、イメージサークルが小さいと画面のスミにケラレを生じ、また、光軸がフィルムの中心になかったり、垂直に交わらなかったら被写体像の歪曲(ディストーション)が対照的でなくなったり、画面の一方にピントの合わない「片ボケ」のような結像結果を招くからである。

大判カメラのアオリは、フィルムの一部をレンズに近づけ、他の部分を遠ざけることによって、さまざまな位置で被写体像の大きさを変化させる。また、フィルム面と平行でない被写体でも、その面にピントの合う面を一致させシャープな像をつくるなど「レンズの光軸がフィルムの中心へ垂直に交わる」という普通のカメラが持つ常識をくずし、積極的に結像効果を変化させるテクニックなのである。したがって、アオリ機能を十分に活用するためには、カメラはアオリ量が大きいこと。レンズは、それをカバーできるような大きなイメージサークルを持つことが必要な条件となる。


基本セットで撮影スタート

 シートフィルムを使う大判カメラには、用途によってビュータイプ、テクニカルタイプ、プレスタイプなどがあり、金属製のほかに木製のカメラもある。ここで取り上げたハンドメイドの木製カメラは、折りたたみ式でコンパクトに格納でき、軽量なので携行性に優れているという特長がある。しかも、金属製にくらべ価格が安いということもあり多くの愛用者をもっている。一見、旧式に見えるカメラだが、交換レンズ群は何十万円もする高級機と同じレンズを使うことが可能である。

さて、カメラ本体を三脚にとりつけ、組み立ててみよう。三脚は、金属製大判カメラ用のように頑丈なものでなくてもよい。カメラが軽いのだから中判カメラ用のものでも十分間に合う。三脚用ネジ穴は普通、前ぶたを兼ねたベッドまたは本体に設けられている。まずカメラを三脚に取りつけてバックフレームを前ぶた(ベッド)に対して垂直になるよう固定する。つぎにレンズをつけるフロントフレームを引きおこし、ベッドと直角になるようにしてからレンズを取りつける。レンズの中心(光軸)をフィルムの中央に交わるように位置させたら、各部のネジを締めて固定する。これでカメラは、アオリのないスタンダードな状態にセットアップされたことになる。

では、手始めに黒白フィルムで屋外の景色でもねらってみよう。カメラを被写体に向け、レンズの絞りを開放にセット。プレスフオーカスレバーを使ってシャッターを開くと、ピントグラスに、上下左右が逆になった被写体像がボンヤリと見える。外光を遮る黒い布(カプリ/冠布)を使うといっそう見やすくなる。そこで、カメラのフォーカシング・ノブを回転させて像がハッキリ見えるよう調節、構図を決めたところでノブを締めて繰出し装置をロックする。

被写体の明るさを測り、絞り値とシャッター速度を決めてレンズのダイヤルに設定する。絞り値の設定は、小さく前後に動かしてセットしてはいけない、必ず開放側から一気に絞り込むようにする。設定値の誤差を少なくするためだ。シャッターを閉じ、セットレバーでシャッターのチャージをする。フィルムホルダーをカメラに挿入し、引きぶたを引き抜いてシャッターを切る。引きぶたをホルダーに挿入してホルダーをとり出せば、撮影は終了である。


アオルためのレンズの条件

 大判カメラ用レンズのカタログを見ると「包括角」とか「包括角度」「イメージサークル」といった35mm判カメラ用レンズでは見かけない単語や数字が書いてある。包括角というのは、イメージサークルをカバーするレンズの見込み角のことで、角度の単位"度"で表示されている。イメージサークルは、レンズの固有焦点距離(無限遠時)で結像させたときの像面の直径のこと。周辺光量の低下とか解像力の低下を防ぐため、ふつうはF22に絞ったときの大きさを測りmmで表示する。同じ焦点距離のレンズでは、包括角度の大きいレンズほどイメージサークルも大きい。

包括角度やイメージサークルの大きさは、レンズの焦点距離とは無関係なことが多い。それは、焦点距離の長いレンズほど包括角度が小さくてもイメージサークルは大きくなるが、反対に、焦点距離の短いレンズは短くなればなるほど包括角度が大きくないと、必要なイメージサークルが得られないからである。4×5判カメラの画面寸法は、長辺が130mm、短辺が105mm。対角線は155mmである。これを見ると、イメージサークルが155mm以上のレンズでなければ4x5判カメラには使えないことがよくわかる。ただし、例外がある。前にも書いたようにイメージサークルは、レンズ固有の焦点距離で結像させたときの像の直径である。

これは、無限遠にピントを合わせたときなので、レンズとフィルムの間隔が最も短く、そのレンズのイメージサークルが一番小さい時の大きさである。近距離撮影でレンズを少しずつ前へ繰り出してゆくと、レンズの包括角は同じでもレンズとフイルムの間隔が広くなるので、結像の直径、つまりイメージサークルも大きくなっていくのだ。かりに、等倍撮影をするためレンズを焦点距離の2倍の位置まで繰り出したとすると、イメージサークルは2倍の大きさになる。このようなときはイメージサークルが80mmしかない中判用レンズでも、十分4x5判の全画面をカバーできることになる。イメージサークルから画面の対角線長を差し引いた残りの2分の1が、そのレンズで可能なライズフォールシフトの各アオリ量になる。アオリの許容量は、大きければ大きいほど表現の幅が広いことになる。

なお、大判カメラ用レンズは、使用する画面寸法が必ずしも一定ではないので35mm判カメラのレンズのように画角の表示はない。35mm判の対応表を作っておいたので参考にしてほしい。また、大判カメラ用レンズのスペックには最短撮影距離の表示がない。これはピント合わせ機構がレンズにはなく、カメラの蛇腹を使った繰出し機構で調節するからである。


アオリによる被写界深度の調節

 ここでは、いよいよアオリの技法に入る。4×5判カメラを使っている人でも「アオリはめんどうだ」とか「風景写真にアオリは不要」などと思っている人が意外に多い。しかしアオリは、画像のシャープネスを生かす被写界深度の調節だけに使うものではない。大判カメラの諸機能をフルに生かして、画像の形状コントロールによる表現効果の演出を可能にするため、ぜひマスターしておかなければならないテクニックである。

すぐ目の前にある花や草などの被写体から、はるか彼方の山や雲にまでシャープにピントの合った風景写真は、それだけでも、すごい迫力と臨場感がある。前景から中景、遠景までバッチリとピントの合っていることをパンフォーカスといい、35mm判カメラで撮るとしたら24mmとか21mm超広角レンズのように、被写界深度の深いレンズを使う。被写界深度というのは、ある被写体にピントを合わせたとき、その部分の手前と奥で、ピントが合ってシャープな画像が撮れる範囲のこと。被写界深度は、被被写体とカメラ間の距離が大きくなればなるほど、また、レンズの絞りを絞り込めば絞り込むほど深くなる。

また、焦点距離の短いレンズほど深く、反対に焦点距離が長くなるにしたがって浅くなる。画面対角線の長さが150mmの4×5判カメラでは、焦点距離150mmが標準レンズとなっている。150mmというと、35mm判カメラでは望遠レンズだ。被写体にピントを合わせたとき、その前後にピントの合う範囲が狭い。つまり、被写界深度がきわめて浅いレンズである。4×5判と35mm判では、画面の大きさが違うが、同じ焦点距離のレンズがフイルム上に作る像は、大きさ、ボケ具合などが同じという事実は見逃すわけにはゆかない。4×5判カメラで使用するレンズは最も短いものでも65?75mで、35mm判カメラでは、望遠系のレンズになる。これでは、いくら絞り込んで撮ったとしてもパンフォーカスな写真を撮るのはむずかしい。

そこで、この問題を解決する鍵となるのがここでのテーマ「アオリによる被写界深度の調節」である。アオリ操作で、レンズの光軸をフィルムに対して斜めにすると、カメラに対して斜めの被写体にシャープなピントを得ることができる。左図のように被写体のピントを合わせたい面とフィルム面の延長線が交わる点へ、レンズの光軸に垂直な面が一致するようにする。この方法は、オーストリアのシャインフルークによってはじめて唱えられたのでシャインフルークの原理と呼んでいる。この原理からすると、レンズを付けたフロントフレーム、フィルムを付けたバックフレームのどちら側でアオっても、同じピント面をつくることができる。しかし、バックフレームのアオリは、被写体の形を変えるので、普通はレンズのあるフロントフレームをアオルことが多い。

草原やお花畑のように、奥行きのある水平な面にピントを合わせるアオリは、フロントフレームを前方ヘティルトする。被写体が並木とか柵のように、奥行きのある垂直面のときはフロントフレームを被写体方向ヘスイングする。これで、レンズの絞りを開放したままでも、手前から奥までシャープな像を作ることができる。このように「被写界深度を調節するときにはレンズをアオるのだ」と覚えておいてほしい。最後に、被写界深度のチェック法。ピントグラスに映っている像をルーべで見ながら絞り込み、被写体のシャープなピントを得たい部分ごとに、どの絞り値まで絞り込めばよいかを確かめる。このとき、絞りを開放、絞り込み、を繰り返しながら必要な絞り値を見つけ出す...という方法が手っ取り早くてよい。


画像の形を変えるフィルム面のアオリ

 4×5判カメラの"アオリ"というと、高層ビルを写した作例写真が使われることが多い。背の高いビルを見上げるようにして撮ると、上の方へいくにたがってビルの横幅がだんだん細くなって写る。また、画面の両サイドにあるビルは、画面の中央へ寄りかかるように傾いて写る(写真A)。なのに、写真Bは、どのビルも垂直に写っている。

ビルの外壁や窓枠は、実際には地面に対して垂直である。それぞれは平行で、かりに延長線を引っ張ったとしても、決して交差することはない。しかし、写真の中では、垂直の線を延長すると(画面の外ということもあるが)必ず一点に集まる。そのため、ビルが後方へ傾いたように見える。また、カメラを下へ向けて撮ると、垂直の線は上向きの放射状に広がって写り、箱のような被写体だと上面が広く底面は狭く写る。この現象は、焦点距離の短いレンズほど、カメラを上または下へ向ける度合いが大きくなるど、カメラ位置が被写体に近づくほど...それぞれ強くなる。

ところが、ビルにカメラを向け、ファインダーやピントグラスを見ながらレンズの光軸が水平になるようにして構えると、被写体のすべての垂直線が画面でも垂直になる。これは、レンズの光軸を水平にしたからではなく、フィルム面を垂直に保ち被写体の垂直線と平行にしたためなのだ。このとき、画面の下半分は地面が写ることになるが、もし、レンズを上の方へ平行にずらすか、フィルムを下の方へずらすことができるなら、画面の中央に真っすぐに建ったビルを写し込むことができる。これは、なにも垂直線に限ったことではない。水平な線も同様である。

二つの線が平行している場合、画面では遠くへいくにしたがって線の間隔が狭くなっていく。像は形の大きさの違いとして現れ、透視図的奥行き感---パースペクティブ(遠近法)を生みだす。パースペクティブは、平面上に立体感や遠近感をもたせることで、画家が風景画を描くときに使う透視図の原理から発達したものである。写真では、カメラ自体が自動的に透視図的表現を行うが、アオリ技術によって、それをコントロールすることができるのだ。つまり、被写体の形を変え、空間や距離感を拡大したり縮小することができるので、それによって力強い写真表現が思い通りにできるようになる。

ではアオリの作例写真として、最もポピュラーなビルの撮影をタチハラフィルスタンド45を使い、実際に撮ってみることにしよう。

  1. 三脚にのせたカメラをビルに向け、ピントを合わせてフレーミングをする。……このとき、ビルは上の方へいくにしたがって横幅が狭くなっている。
  2. ボディーの左右にあるバックフレームロックネジをゆるめ、ピントグラスのあるバックフレームを前方へ起こし(ティルト)、水準器を使って、垂直にしてからロックネジを締めて固定する。このときバックフレームがフロントフレームに近づいてしまうので、ピントグラスの像はボケて見える。しかし、ビルの垂直線は、すべて垂直に映っている。
  3. 次に、ビル全体にピントが合うようにするため、フロントスタンダード支柱のロックネジをゆるめ、支柱を押し下げるようにしてフロントフレームをティルトさせ、前枠部が垂直(ピントグラスと平行)になるようにして固定する。…-このときにも水準器を使ったほうがよい。
  4. 再度ピントを合わせなおす。…すべての垂直線が真っすぐに修正されたビルが、クッキリと見えてくるはずだ。 なお、ピルの水平線の奥行き感をなくしたいときは、さらに、フィルム面をビルの面と平行になるようスイングさせればよい。スイングを逆方向にすれば、奥行き感は反対に強調されることになる。

バックフレームのアオリは被写体の形を変えパースペクティブのコントロールができる。だから「バックフレームで形を決めてからフロントフレームのアオリで被写界深度を調節する」この順序を守らないと、いつまでたってもアオリのテクニックは上達しない。


等倍撮影 ! ネイチャーフォトに挑戦

 被写体をフィルム面上へ原寸大に写しとることを等倍撮影と呼んでいる。35mm判カメラで写す等倍撮影は、もともと撮影できる範囲が狭く画面も小さいので、どうしてもシャープさに欠けることは否めない。これに対し4x5判は、十数倍もの広い範囲を高画質で撮ることができるので、比較にならないほど迫力のある写真が写せるので、これが大きな魅力となっている。

4×5判の実用上の画面寸法は9×10.5cmぐらい。この大きさを切りとってサマになる被写体を探しだすことが良い作品につながる第一の条件だ。それには、4×5判用の紙製マウントフレームを用意して、カメラを構えるまえにこれを被写体に近づけ、画面構成を考えるようにするとよい。ピントグラスに被写体が同じ大きさに見えるのは、レンズとピント面との間隔がレンズの焦点距離の2倍になったときだ。150mmレンズだと、繰り出し量が300mmでレンズと被写体までの距離も300mmに設定されたときである。

では、タチハラフィルスタンド45にフジンW150mmF5.6をつけた状態での等倍撮影を、実際にやってみることにしよう。カメラを組み立てたら物差しを用意し、レンズをピントグラスから30cm繰り出したところで固定する。レンズのどの部分から測るのか気になるところだが、とりあえずはシャッターの厚みの中央部、絞りのあるあたりを目安にする。35mm判カメラだったら、接写用のベローズとか中間リングなどが必要になるところだが、4×5判カメラは蛇腹を伸ばすことができるので、特別なアクセサリーを使わなくても、簡単に等倍撮影を楽しむことができるのだ。

ところで、レンズを焦点距離の2倍も繰り出す撮影では、単独露出計の指示値をそのままレンズに刻まれているFナンバーに設定しても、適正露光は得られない。一般的に、レンズの表示F値がそのまま通用するのは、レンズから被写体までの距離が撮影レンズの焦点距離の8倍以上あるとき。被写体がそれよりも近くなるとレンズとフィルム間の距離、つまり蛇腹が撮影距離に比例して長く伸びることになり、フィルムの像面光量が少なくなる。

そのため、レンズの絞りを必要なだけ開けるか、シャッター速度を遅くして露光量を増してやらなければならない。このときの補正量のことを露出倍数とかベローズ・ファクター(蛇腹指数)と呼んでいる。近接撮影時に、蛇腹の伸びで有効でなくなったレンズの表示F値が、実際にはどれぐらいになってしまうのかということは、次の式で知ることができる(ただし、テレタイプのレンズには適用できない)。

露光倍数=(レンズとピント面までの距離/撮影レンズの焦点距離 )の2乘

ピント合わせは、カメラ全体を前後に移動させながら行うが、このとき、35mm判カメラ用のマクロスライダーを使用し、ピント合わせの微調整をすると意外に便利.。等倍撮影では、被写界深度が極端に浅くなる。シャープなネガを作るためには前項の「レンズ部のアオリ」で被写界深度の有効な調節をする…ということを忘れないように。蛇腹が伸びているのでレンズ固有のイメージサークルも、この場合には2倍の大きさになっており、それだけアオリの自由度も高くなっている。

 また、等倍撮影ではピントの悪いネガを作りやすい。原因はピント合わせの不手際やレンズの性能の悪さ---というのもあるが、実際にはカメラぶれのほうがはるかに多いものだ。カメラぶれは、三脚をワンランク上の頑丈なものを使うとか、小型ストロボを併用するなどで防ぐことも可能だが、シャッターを切る時にあらゆる震動が完全になくなるまで待つことが大切。風のある日や、自動車や列車の通るようなところでは、特に注意したいものである。


インスタント・フィルムは上達の最短距離

 これまでここで進めてきた4×5判写真術をおさらいしてみよう。シャッターを開け、アオリを使って形を整え、ピントの合う範囲をコントロール。ルーぺでピントグラスの隅々までピントを確かめながら画面を構成する。露出計の測光値を読みとってシャッター速度と絞り値を設定。シャッターを閉じてからセットレバーでシャッターをチャージ。フィルムフォルダーを挿入し引きブタを抜きとる。そこで、さてレリーズとなって被写体を眺めたとき「これで思った通りに撮れるんだろうか」という心配が、頭の何処かをカスメルと、急に不安になるものである。

大判カメラは、シャッターを切ったら必ず写る---写らないのはカメラが故障しているときだけ---というデジタルカメラや35mm判カメラとは、まるで違う。各部の機能や操作は全部がバラバラで、つながりはない。そのため、どれか一つでも操作を間違ラと、ただちに失敗、写っていないということになる。こんなとき、強い味方になってくれるのが4x5判のインスタントフイルム。ポラロイドという代名詞まであるインスタント写真は、文字通りすぐに結果を見ることができるのが大きな魅力だ。本番前に一枚撮れば、天地が逆という見なれない画面での構成、ピントの具合、露出が適正かどうかといったすべての不安は、一気に吹きとんでしまう。ただし、思い通りに撮れていたときの話だが…。

史上初のインスタントカメラは、ポラロイド95型で1948年11月にアメリカボストン市のデパートで限定発売されている。60年近くも前のことだ。現在、私たちが手に入れることのできる4×5判インスタントフイルムには、大きく分けると3つのタイプがある。その第1は、一体構造方式(モノシートタイプ)のもの。シャッターを切ると、カメラから写真が自動的に送りだされ、見ているうちにジワジワと像が現れる---フジのフォトラマやポラロイドのSX-70やサンカメラに使われているタイプ。ネガシートとポジシートが一体化されており、引きはがすことはできない。4x5判はフジのFI-160だけ。

第2、第3はネガとポジを引きはがすタイプ。ピールアパートタイプとか剥離方式とも呼んでいる。フィルムが一枚ずつバラバラになったシートフィルムと、8x10枚が1個のプラスチックケースに入れられた、パックフィルムがある。シートフィルムは、撮影のたびに1枚ずつ専用のホルダーに入れて使用する。フィルムは遮光性のある紙製封筒に入っているので明るいところで装てん可能。パックフィルムも専用ホルダーを使用するが、こちらは全枚数を連続して撮影することができる。インスタント写真を美しく撮るためには、守らなければならないいくつかのポイントがある。

まず、フィルムの引き抜き方。一体構造方式のフィルムはホルダーまかせでよいが、手で引き抜くタイプでは、必ずホルダーからまっすぐにほどよい一定の速度で引き抜くのがコツ。この作業は、現像剤をポジとネガの間に「均等に」広げるためのものである。引き抜き速度が遅く一定でないとムラが生じ、速すぎると現像剤に空気が混入して画面に白い点ができる。また、まっすぐに引っぱらないと画面の片隅がカケてしまうことがある。所定の現像時間がたったら、ポジとネガをはがすわけだが、この時は一気にはがすのがよい。少しずつはがすと現像ムラができてしまう。

ホルダーから引き抜いたあと、つまり、現像中にフィルムを。パタパタ振ったり、手のひらでこすっている人をよく見かけるが、これはやめてほしい。拡散転写プロセスの最中なので、静かにしておかないと像のズレ、ボケなどの原因になる。ホルダーの現像ローラーの表面やフィルムの出口付近は、フィルムから漏れた液で汚れやすい。よく確認し、いつもきれいにしておこう。

フィルムの種類はけっこう多い。テスト撮影に使用するのだから、本番で使うフィルムと同じ感度のものを選ぶほうがよい。同じシャッター速度と絞り値で撮れるからだ。もし、感度の高いフィルムを使うときにはNDフィルターを併用する。また、特にピントとシャープネスを見たいときには、モノクロのネガフィルム付きのポラロイド一タイプ55がよい。ネガフィルムをルーべで見れば、ピントやライティング効果、露光値などかなり細かいところまでチェックすることができる。

フィルムや印画紙のことを、よく生ものというが、現像剤をパックしたインスタント写真用フィルムの場合は、とくにそうだ。生ものに食べころがあるように、インスタント写真用フィルムにも使いごろがある。一度開封したフィルムは、湿度や温度で変質することが多い。ポリ袋などに入れ密封しておけば、ある程度鮮度を保つことができる.が、なるべく早めに使いきるようにしたほう.がよい。また、買うときには有効期限のなるべく長いものを選ぶようにしたいものである。
大判カメラの魅力(2)へ続く