| 大判カメラの魅力(1)からの続き |
モノクロ用の実戦的フィルターワーク カラープリントに押され気味ではあるが、黒白プリントのトーンの美しさが再評価され、その愛好者が増えつつある。これまでのイルフォブロムギャラリーとオリエンタルのシーガルGに加え、コダックからエリートファインアートが新しく登場し、富士フイルムからも新ぺーパー、ミュージアムが発売された。これらは、いずれもPCタイプではなくバライタ紙の高級印画紙で、とくに展覧会用、保存用プリントなどのオリジナルプリントに興味のある者にとっては、その存在価値を見逃すわけにはゆかない。だが、4x5サイズの黒白フィルムは、種類が豊富にあるとはいえない。一覧表を見てもわかるように、ロールフィルムに比べ種類がはるかに少ない。特に、超微粒子高鮮鋭度フィルムで質感描写に適したISO-100未満の低感度のもの、ISO-400以上の高感度超高感度フィルムが少ないのが寂しい。 これらの黒白フィルムは、パンクロフィルムといって、色のある被写体を黒白の譜調で印画紙に表現したとき、被写体の明暗が自然な感じで再現されることになっている。しかし、厳密には、すべての色光に対して同等の感度をもっているわけではなく、紫外線から青色光までの波長域に対してやや感度が高い。そのため、被写体によっては、その明暗が目で見た感じとはやや違って描写されてしまうことがある。風景写真で黄色系のフィルターを使用すると、自然な感じで撮れるのは、青色光をフィルターが吸収して、青や紫が必要以上に明るく描写されるのを防ぐことができるからだ。 また、タングステン光で撮るときは、黄緑系のフィルターを使うとよい。タングステン光に含まれている赤い色を、自然光とほぼ同じ比率に下げる効果があるので、肉眼で見た感じに近い状態に表現することができる。これら、自然な表現をするためのフィルターを補正フィルターと呼んでいる。黒白フィルム用には、そのほかコントラスト調節フィルター、ヘイズカツトフィルター、偏光フィルター、NDフィルターなどがある。 コントラスト調節フィルター : 赤と緑を黒白で再現してもその差が出ないときは、赤いフィルターを使えば赤が明るく、縁は暗く表現できる。反対に緑色のフィルターを使うと赤が暗く緑が明るく表現できる。また、青空に浮かんだ白い雲は、黄色系のフィルターを使えば肉眼とほぽだいだい同じ状態に描写できる。さらにオレンジ色とか赤色を使うと青空は肉眼よりも暗く表現できる。 ヘイズカツトフィルター : ヘイズというのはもやのこと。もやは、空気中で紫外線や青紫光の散乱によっておこり、遠方が見えにくくなる。さらに、フィルムはそれらの光に対して感光性が高いため、肉眼では感じないようなもやでも写ってしまうので、いっそう遠景にメリハリがなくなる。紫外線を吸収するUVフィルターが一般的だが、黒白写真で遠景をクッキリと描写するにはオレンジや赤色のフィルターが効果的。 偏光フィルター : フィルターの角度を調節することで青空を暗くおとして雲を白く表現するとか、被写体の表面反射をとり除いて質感描写を高める効果がある。また、2枚重ねて角度をコントロールすると、非常に濃いNDフィルターと同じような効果が得られる。 NDフィルター : Nは=newtral Dはdensityの頭文字-すべての光を平均的に吸収し、透過光量を減少させる機能がある。明るいところで絞りを開けて撮りたいときや、よりスローな速度でシャッターを切りたいようなときに使用する。 フィルターは、このようにして特定の波長域とか光の成分の一部分を吸収、透過して、フィルム上へ到達する光の組み合わせをコントロールするものである。そこで、フィルター選びの基本は、プリントの段階で被写体のトーンやコントラストをどのように表現するかを決めることが重要である。被写体と同色のフィルターを選べば、被写体の色はフィルターを通過し、他の色は吸収されるため被写体と他の部分との明暗差を広げて表現することができるのだ。作例は、赤い花と緑の葉のトーンで示してみた。 小型カメラでは絶体に撮れない写真に挑戦 大地から芽を出し、大空に向かってニョキッ! ニョキッ! と伸びて行くように見える作例写真Aをみて、「アレッ! 不思議な空間が写っているなッ! と驚き「いったいどうやって撮ったんだろう」と、あれこれカメラワークまで考えた人は、かなり多いのではないだろうか。 東京の新都心西新宿の高層ビル街を撮ったものだが、何故か、ビルが上の階へゆくにしたがって大きくなって写っている。気球かヘリコプターにでも乗って数十メートルの高さから見下ろすようにして撮れば、ビルの形だけはやや似た形に写せるかもしれない。しかし、ビルの窓枠が並ぶ水平な線で、パースペクティブ(遠近感奥行き感)を見ると、これは、まぎれもなく「地上から撮った写真」であるということがわかる。この写真は、大判カメラ特有のアオリ機構を使って撮ったもので、普通の35mm判一眼レフでは絶対に撮ることの出来ない写真である。 では、この写真が、どうして見る人に不思議な感じをあたえるのか、ちょっと考えてみることにする。われわれが、たぶん撮影の対象として選ぶ多くの被写体は、奥行きのある立体的な"もの"である。したがって、普通のカメラのレンズを通して撮る写真で表現するときは、近い被写体は近い感じに、遠い被写体に対しては遠い感じになるように描写される。遠近感には、写り方としてのボケやトーンなどによるものもあるが、なんといっても形、大きさによる場合が多い。一般的には、近くのものは大きく、遠くのものは小さく写る。だから「遠小近大」といって、大きいものは近くに、小さいものは遠くにあるように感じるのである。 ビルを見上げるようにして撮ると、カメラからビルまでの距離が、上にゆくほど遠くなるのでビルの幅は上にゆくほど狭く写る。「遠小近大」である。その度合いは、見上げる角度が大きくなればなるほど、ビルにカメラが近づけば近づくほど、また、使用するレンズの画角が大きければ大きいほど激しくなる。そして、ビル群は画面の中心線に向かって傾くように集まり、奥へ倒れるように撮れる……というのが普通である。ところが、作例Aのビルは上にゆくほど幅が広くなり、画面の外側へ広がるように撮れている。しかも、手前に倒れてくるようにも感じられる。地上の風景は普通とあまり変わらないが、ビルのパースペクティブは「遠大近小」で普通とは逆になっているのだ。 前記の「画像の形を変えるフィルム面のアオリ」を思い出してみよう。あそこでは、ビルを見上げるようにして撮ったとき、ビルが上へゆくにしたがって狭くなり傾いて写るのを、修正するアオリがテーマになっている。カメラをビルに向けフィルム面を垂直にすると、ビルは画面内でも垂直になった。ピントグラスを見ながらアオってゆくと、ビル群の上すぽまりが徐々に修正されてゆく様子をハッキリと眼でたしかめることができた。この時は、ビルが画面内で垂直になったところでバックフレームを固定したが、もし、そのままチルトを続けたとしたらどうだろう。ビルの形は、上すぽまり⇒平行⇒上ひろがりとすすんで、この作例のような「遠大近小」の"逆遠近"ともいうべき不思議なパースペクティブの画面ができるのである。 作例Bは、Aと同じ場所で撮ったものだが、これもストレートに撮ってあるわけではない。左右の建物が画面の後方にむかって倒れるように写っているが、これは、普通にできるパースペクティブを、アオリを使って一層強めたものである。つまり、カメラを思いっきり上に向.け、レンズをめいっぱい下げて、ビル群が画面に入るように調整して撮ってある(使用レンズはいずれもニッコールSW150mmF5.6)。 作例は、アオリの効果が良く分かるように直線的な立体物である高層ビル群を撮ったが、一般的な風景写真でもこのアオリのテクニックを使うと、小型カメラでは絶対に撮れない、まったく新しいイメージの風景、4×5判ならではの新風景写真を造り出すことが可能になる。 大判のテクニックで35mmポートレートに差をつけよう 写真を撮られるときは、誰でも、出来るだけ美しく、少しでもカッコよく撮ってほしいと願うのはあたりまえである。そこで、スマートに撮れるポーズの付けかたや、カメラを構える高さ、使用するレンズの焦点距離などの選択が、良いポートレートを撮るための大切なポイントになる。4×5判カメラでも、撮る位置やレンズ選びは重要だが、35mmカメラにはないアオリ機構を上手に使いこなすことで、小型カメラでは絶対に撮ることの出来ない"喜んでもらえるポートレート"を簡単に写すことができる。 では、ポートレートでのアオリについてみてみることにしよう。ここで是非とも知ってほしいのは、被写体の形を変えるのを目的としたアオリだ。太めの人をほっそりとさせたり、反対に痩せすぎの人をふっくらとさせるなど、小型カメラでは絶対に不可能な描写が、大判カメラでは可能になるということだ。普通、フィルムの上に記録される像は、レンズの光軸が交差する画面の中心部に比べ、周辺へゆくにしたがって、外側へ放射状に像が伸びてゆく。これは、記念写真を撮ったとき、中央に並んだ人は自然に写っても、端に立った人ほど太って写るという"よくある事実"を思い出せば、誰にでも容易に理解できることである。仮に、画面の中央に顔を位置させて全身像を撮ったらどうだろうか。顔は自然に撮れるが足先へゆくに従って、縦に伸びてスマートに写るはずである。 ここまで話が進んでくれば、もう、どんなアオリをすればよいか、おおよその見当がつきはじめたのではなかろうか。そう、画面の中央で顔をとらえたら、あとはレンズをフォール(下げる)かフイルム部をライズ(上げる)して全身がピントグラスに映るようにすればよいのだ。画面の全域にわたって縦方向へ伸ばしたいときは、レンズの光軸をさらに下へ移動させイメージサークルの端を使って作画するようにする。また、フィルム部の上側を後方ヘティルトしても同様の強い効果を得ることができる。一部のウッドカメラのように、フィルム部にライズ機構がないばあいは、レンズ部とフィルム部の上側を後方ヘティルトして、光軸をピントグラスの下方向へ移動させる。 被写体像の縦方向への伸びかたは、使用するレンズの焦点距離と撮影距離が短いほど強い効果を得ることができる。なお、アオリをこのままにしてカメラを横に倒すと、被写体像は横の方向に伸びる。カメラを倒さなくてもシフト(横方向へのスライド)やスイング(左右方向への首ふり)で光軸を横にずらせばよい。このアオリはあまり使わないが、痩せすぎの人をふっくらと描写することができる。作例写真のAは縦方向へ伸ばして撮ったもの、横方向へ伸ばしたBと比較してみれば、ポートレートでのアオリの効果をよく知ることができる。 ところで、実際に撮影する場合どのくらいアオればよいか、が問題だ。いかにも伸ばしましたといわんばかりの、ミエミエ・アオリは感心しない。寸法にして数%のばしただけでも、イメージは驚くほどかわるものである。さりげなくスマートに撮る。そんな心構えが「あの人は写真の撮り方が上手」という評価につながることを忘れないでほしい。「アレーッ、どっちも私だーッ」、2枚のインスタント写真を見たモデルが叫んだ。例Cは、前枠後枠を上下にずらした"スリム"アオリ。Gは同じく左右にずらした"ファット"アオリで撮ったもの。顔の横幅が20%も違えて撮れたのは、アオリでレンズの光軸が画面のセンターからずれると、ずれた反対側へゆくほと像が拡大されて写るため,CはタテGはヨコ方向へ拡大して撮ってある。作例では、効果をわかりやすするためアオリ量を極端に大きくした。 細めと太め。2枚の写真を並べてみるとまるで別人のようだ。モデルの本当のプロポーションは2枚の中間。共通データ=リンホフテクニカルダン4x5・ニッコールSW150mmF5.6フジインスタントFP-500B 賢い大判カメラ選びのポイント 4x5判写真術入門もついに最終回を迎えることになった。そこで今回は、大判写真をこれから始めようという方々が、実際にカメラを買うときに役立つよう「カメラ選びのポイント」を考えてみる。 現在、買うことができる4×5判カメラは、ボディ価格が数万円の木製フィールドタイプから100万円をこえるシステムビューカメラまで、およそ40ぐらいの機種がある。4x5判カメラは、35mmカメラのように画一的な外観ではなく、それぞれが独特のシルエットを持っている。搭載している機能の組み合わせはさまざまで個性的、操作の方法も小型カメラのように共通点があるというケースはきわめて少ない。文字通りの多種多様、バラエティにとんでいるのが特徴といえる。そのため使用目的に適したカメラを選ばないと、思いがけない失敗や不都合を招くことになりかねない。 カメラ選びは、いうまでもなく何をどのように撮るか、撮りたいのかが基本になる。4×5判カメラは、ほとんどのものがプロ向けとして作られている。そのため、小型カメラのようにオールマイティな万能機ではなく単能機にちかいようなものが多い。用途が比較的ハッキリしているので見極めが大切。カメラの基本的な形状で分類するとモノレールタイプとフィールドタイプの二つに分かれる。 モノレールタイプは丸、角、多角形などの金属製パイプや引き抜き材を使用したオプチカルベンチに、レンズをつける前枠とピントグラスのある後枠をつけ両者をベローズ(蛇腹)でつないだもの。大判カメラ特有のアオリ機構の作動範囲が広くてアクセサリー類も豊富。超望遠レンズや超広角レンズも使用可能で、どんな表現にも対応できるようになっているものがほとんど。もともとスタジオ用として開発されたものなので、大きくて重いのが欠点。持ち運びにはあまり適さない。フィールドタイプは、フィールド(屋外)での使い易さを基本にして開発されており、コンパクトに折りたためる軽いボディで、すぐれた携帯性が特徴。山や野を歩き、風景や自然写真などを撮るのなら絶対これに限る。ここでは、フィールドタイプを買うとして、いろいろ考えてみることにする。 金属製と木製があるが、各部の組み立て精度の高さ、丈夫さで金属製のほうが優れている。しかし、現在の木製カメラは、レンズやフィルムホルダーの装着方式が金属製ビューカメラと近似しているので、従来の組立暗箱のイメージはない。アオリ機能や操作性も大同小異といえるほど、近代化されているものが多く、背負う荷物は少しでも軽いほうがよいという人には木製を薦める。 常用レンズは何かどんな写真を撮りたいか。そのためには焦点距離何mmのレンズが必要かということを正確に知ることも大切だ。ほとんどのカメラが、レンズを前枠に付けたまま蛇腹とともにボディ内におりたたんで収納できる。しかし、スペースの関係でどのレンズでもよいというわけではない。レンズ1本を別に持ち歩く不便さを考えると、そのレンズをつけたままでたためるボディを探すという努力も必要になる。また、蛇腹が最長何mmまで伸ばせるかということも重要なポイントだ。使えるレンズの焦点距離の範囲や、近接撮影時の撮影倍率がそれによって決められてしまうからである。 三脚ネジ穴はどこにあるか焦点距離の長いレンズを使った撮影とか近接撮影のように、前枠を大きく繰り出して使うとき、その繰り出し量にしたがってカメラの重心は、どんどん前方へ移動する。そして、この傾向は口径の大きいレンズとか長焦点レンズのように重量のあるレンズを付けたときほど激しい。カメラを三脚に取り付ける位置は、安定性のよい重心点が理想的だが、その位置へ三脚ネジ穴を自由に移動することのできないのがこのカメラの欠点である。三脚ネジ穴は、ボディと前ブタの2カ所に付けて安定性を高めているのが一般的。しかし、なかにはボディに1個だけしかないというものもある。広角専用ならばこれでもよいが、そうでない場合にはカメラぶれの原因となるので注意したほうがよい。ピントグラスに透明プラスチックを成形してつくった平凸レンズの一種フレネルレンズを重ね合わせて使ってある場合がある。画面の隅々まで像が明るく見えるという利点があり、35mm一眼レフのファインダーではおなじみのものだ。 しかし、フレネルレンズの表面には同心円の細かい溝が刻まれているため、ルーぺを使ってピントを確かめるときには非常に見えにくい。また、フレネルレンズには固有の焦点距離があり、撮影レンズの焦点距離と大きく異なるときは極めて見えにくくなることを知っておいた方がよい。そのため、ときにはピントを合わせ違えるようなこともおきている。ルーべを使わない撮影には向いているのかもしれないが、やはり、これはメーカーに話して取り外してもらったほうがよさそうだ。ルーペの倍率はせいぜい4〜5倍のものが見やすく使いよい。そのほか、いうまでもないことだが各作動部はスムーズに動くこと、各ロック部はしっかりと固定できることが最低必要な条件。前・後枠部がグラグラしたり固定出来ないようなカメラは絶対に選ぶべきではない。 |
| ■ 4x5判カメラ |
** | ■ 5x7判/8x10判カメラ | ||
| カメラ名 | 標準価格 | カメラ名 | 標準価格 | |
| タチハラ・フィルスタンド45 | 93,000 | タチハラ・フィルスタンド57 | 173,000 | |
| ウィスタ・フィールド45DXチェリー | 111,100 | タチハラ・フィルスタンド810-2段 | 189,000 | |
| トーホー・FL452 | 137,000 | トキスター・TSX-57II-AT | 249,900 | |
| トキスター・TSX 45-IIA | 144,900 | タチハラ・フィルスタンド810-3段 | 260,000 | |
| トヨ・フィールド45CF/45CFL | 158,000 | トキスター・TSL-810-A | 352,800 | |
| トヨ・フィールド45AII | 205,000 | トヨ・フィールド810 M II | 420,000 | |
| トヨ・フィールド45AIIL | 235,000 | |||
| エボニー・ワイド45 | 260,000 | |||
| ウイスタ・45SP | 352.000 | |||
| トヨ・VX125RII | 395,000 | |||
| ウイスタ・45RF | 434,500 | |||
| トヨ・VX125/VX125B | 450,000 | |||
| リンフフ・テクニカルダンS45 | 560,000 | |||
| リンホフ・マスターテヒニカ4x5 | 830.000 | |||
| 作例写真は、東京・新宿御苑に三脚を立て、レンズを付け替えながら撮影しました。同じ場所でも撮影レンズの画角によって奥行感が違う表現になることを注意して見て下さい。 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
| 90mm:80度 |
150mm:54度 |
210mm:40度 |
300mm:28度 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
| 450mm:19度 | 600m:14度 | 800mm:10度 | 1200mm:7度 |